西日本一周 その3
人にどうやったらきれいな写真を撮れるのか聞かれたとき、僕は大抵こう返します。
「音楽を聴きながらリズムに乗ってシャッターを切るんだよ」
「目の前にある景色を自分なりのフィルターをかけて撮るんだよ」
「命を懸けて旅をするんだよ」「自分が晴れ男だと強く確信を持つんだよ」
すると大体みんな何をのたまってるんだコイツは?というような視線を向けてきます。
そりゃまあ質問している人が期待している返事は撮影の技術に関するものであって、わけのわからん精神論で返されたら話題を濁されていると取られてもおかしくないでしょう。
でも違うんです。このブログでも常々言っていますが、写真で大事なのは小手先のテクニックじゃなくてもっと根本的なモノだと考えています。
技術はあくまでもそれに付随するだけのものであり、決して技術や機材がすべてにおいて優先されることはまずありません。あくまでも表現の手段を増やすためだけのものです。
じゃあその根本的なモノはなんなのかといいますと、写真を見る人とのコミュニケーションツールなんです。
かいつまんで言うならば、撮影者の見ている世界、感じた感覚、想像している思考ですかね。これらの曖昧かつ主観的なモノを人に伝えることができる数少ない手段といえます。
白色灯で照らされた無機質な風景であれば、ホワイトバランスを上げて温かみを加えます。
霞でぼやけた風景ならソフトウェアでパパっと明瞭度を上げて青空にしてやります。
濁った水は澄んだ藍色に、肉眼で見えない星空なら感度を上げて満点のプラネタリウムに。
僕は写真を撮る時、そして撮った後、必ず何かしらの手を加えます。
実際の景色を写すことを至上主義としている人からすれば邪道の極みとしか言えない行為でしょうね。まあさすがに映り込んだ人、余計な建造物を消したりはしませんが、大抵の編集、加工は加えています。
実際の景色の色と違うじゃないか!とか言う人もいるでしょう。
だから何なんだよ、と僕は思ってます。
僕が写したい写真は様々な感情のフィルターを通して僕の目に映った景色であり、現実に忠実な景色なんてものは監視カメラにでも任せとけばいいと思ってます。じゃなきゃ僕がわざわざ撮影する意味がなくなってしまうじゃないですか。
思い出の詰まった曲を聴いて感受性を上げて、自分の持つ運勢、スキルに一ミリの迷いもない確信を持ち、命を懸けてみたことのない景色を見て、その時の心情に合わせたフィルターをかける。すると奇麗な写真が出てきます。ついでに目の前の景色を見てもらいたい人の事を思い浮かべるとなおさらよいでしょう。
これが僕なりの奇麗な写真の撮り方です。
僕そもそも写真を撮るときに奇麗な写真を撮ろうとか思って撮ってないですからね?
『自分が今見ている景色、今立っているこの場所の思い出を余すことなく写真に残して永遠の思い出にしよう』
『この景色の美しさを一つ残さず、自分の事も含めて想い人に伝わるようにしよう』
もうこの二つだけなんですよ。それ以上はもう考えてもないし望んでもいません。それだけに命を懸けて写真を撮ってます。
どうでもいい雑記はここまでにして、さっそく本題へ。
夜更けまで降り続いた雨もすっかり朝には青空になっていました。
雨上がりの朝って突き抜けるように爽やかですよね。一発大きな深呼吸をすると一気に目が覚めました。
朝露が乾きかけている草木とアスファルトを駆け抜けていると、時折朝日が反射してキラキラと僕の目に差し込んできました。
朝くらいの気温が夏は一番快適に走れます。しばらく走ってエンジンが温まってくる頃、すっかり雨の痕跡は消え去りまた暑い夏の一日が始まりました。
一通り走り終えて気分をリフレッシュした後は高原を抜けて東へ向かいます。
目の前にあるのは蒜山高原に隣り合う日本百名山の一つ、大山です。雲がかかっているのはまあ気にしないようにしましょう。
ここはブナの原生林で有名らしいですね。
木漏れ日の指すワインディングを飛ばしていると時折似たようなキャンプ道具を積んだバイクとすれ違いました。あんまり自分を客観視する機会って無いもんですが、こうして見るとみんな楽しそうな顔してるんですね。柵から解き放たれた自由人の顔というものはまあ能天気さにあふれてます。
大山が見渡せる展望台へ到着しました。バッチリ雲で頂上が隠れてます。
以前大山に登った時も曇りだったので、どうやらこの山とはあまり縁がないみたいですね。
峠を越えて山の反対側へ入ると、ついさっきまで雨模様だったらしく、あたり一面深い霧に覆われていました。木漏れ日差し込む緑のトンネルもいいですが、纏わりつくような霧に包まれた原生林というのもなかなか幻想的で悪くないもんです。
路面が超絶滑りやすいという点さえどうにかなればもっとよかったんですがね。
霧を通り越してほぼ雨になってきたので、途中のモンベルに避難しました。
どうでもいい事かもしれませんが僕は大のモンベル好きでして、この旅もそうですが、基本的に旅に出る時はモンベルの靴を履いて、モンベルのカーゴパンツとパーカーを着て、モンベルのリュックを背負っていきます。
すぐ乾いて多少の雨も防ぐし、何より動きやすいんですよ。
何が言いたいかというと、こんだけ全身モンベルに身を包んでるだから何も買わず雨宿りのためだけに店の中で小一時間ぶらぶらしてても文句は言われないだろうという自己保身です。言われないよね?
山を下りて島根県に入ると雨雲も消え去って、再び青空に会うことができました。
今日の目的地、出雲大社まではこのまま海沿いの国道9号線を東へひた走ります。
どうでいい愚痴ですがこの国道9号、今回の旅で何度か走りましたが、とにかく混んでる印象しかありませんでした。特にこの米子-出雲間はほかに迂回路もなく、おまけに道も狭いので渋滞をすり抜けることもままならないのでまあ走っててストレスがたまることたまること。ずーっと愚痴りながら走っていると。
やっと到着出雲大社。初めて訪れる出雲大社ですが、まあ僕が訪れたことのある神社とは規模が桁違いでした。とにかくデカいんですよここ。
まず門前町がでかい。
鳥居がでかい。
参道がでかい
これ真ん中は神様専用なので参拝者は両端を通るんですが、その片方で普通の参道並みにあります。
しめ縄がでかい
とまあとにかくでかいの一言に尽きます。敷地で言えば伊勢神宮とかのが大きいんでしょうが、ここはとにかく建造物の大きさに圧倒されました。
規格外の大きさに見とれていると、いつの間にか空が朱く染まり始めていました。
日没までは数えるほどもありません。神への祈りもそこそこに神社を後にすると、向かったのはすぐ近くの海沿いにある稲佐の浜海岸。出雲大社ってすぐ近くに海があることをこの時初めて知りました。
5分くらいで海沿いに到着。観光地という事もあり、結構な人が集まって日没を見ようとしていましたが、生憎夕日は雲隠れ中。クソが、何が聖地だよ。
ふてくされて帰ろうとしたとき、雲と水面の境目にわずかな切れ目ができました。
いやはや、神も捨てたもんじゃないですね。都合のいい信仰心で神様に手のひらを返しながらシャッターを切りました。さっき賽銭箱に投げ入れた10円が無駄にならずに済んでよかったです。
今思えばあんまり見ない夕焼けでしたね。雲が海面スレスレに浮かんでるのはなんだか千と千尋の神隠しの電車のシーンを思い出します。
神にゆかりある場所だからこんな絶景が見られるのか、それとも神秘的な景色だから神が宿る地とされたのか、そんなたわいもないことを藍空の彼方に紅い火が消えゆくまで考えていました。
日が沈んであたりはすっかり真っ暗闇に。
とっとと今日の宿へ急ぎます。明日の目的地はなるべく人のいない早朝に回りたいので、出雲から一旦、瀬戸内側の広島県は世羅町まで向かいます。100㎞ありました。
最初絶望しながらイオンで半額弁当食ってたら、なんと出雲市の南、三刀屋町から世羅町まで無料高速が開通しているとの事。新直轄バンザイ。
70㎞くらい夜の高速を爆走して、10時前には今日の宿の道の駅世羅に到着しました。
この変なモニュメントが目印です。
道の駅で夜食のカップ麺を食っていると、駐車場の厳ついデコトラからガテン系のおじさんが下りてきました。おお怖そうな顔してやがるなあとか考えていると、なんとこっちに向かってくるではありませんか。神様どうか絡まれませんように。
そんな願いもむなしく、人気もまばらな駐車場に響き渡るデカい声でおじさんが声をかけてきます。周りを見渡しても居るのは僕一人だけ。腹をくくって、せめて声の大きさだけは負けないように負けじと「なんですかー!?」と聞き返しました。
すると、返事が。「その単車、あんちゃんのか!!!!?」
数倍デカい声で返されてさっそく意気消沈していると、ずかずかと僕の横にやってくるおじさん。生の広島弁が超怖いよおじさん。
ところがなんの弾みか普通に話をしていました。聞けばおじさんも昔は単車を乗りまわしていたそう。まあ乗りまわすといっても内容からして恐らくは暴走族的な方だと思うんですが、まあそこには触れずにバイク談義に花を咲かせます。
おじさん「最近のバイクは音が小さくていかんな!直管にせえ直管に!!」
僕「いやちょっと金ないんでまた今度ですかね~ハハハ…」
おじさん「わしが昔乗っ取った単車は子供が乗り継いで、その次は孫が乗りよってな、今頃は福岡の街を直管で走り回っとるわ!!」
僕「へ、へぇ~。親子三代で直管はシブいっすね!ちなみになんていうバイクですか?」
おじさん「カワサキのZ2言う単車や!アレの直管が一番いい音ならすんやで!ワッハッハッハ!!!」
僕「やっばぁ」*1
いやふっつーに面白いおじさんでした。気が付くと僕も自分の話をしたりして談笑していましたね。
一通り話し終えるとおじさんがフッと立ち上がりました。
おじさん「あ~のどが渇いたわ!!」そういうなり、自販機に向かうと僕を手招きして呼び寄せ、「今日はなかなか楽しかったわ!あんちゃん好きな飲み物買や!!」
僕「マジすか、ありがとうございます!」
とはいえ、ここで好きなモノを選ぶのも気が引けるのでおじさんと同じ水を選ぶと。
おじさん「若いもんがそれっぽっちじゃのど乾いてしゃあないわ!!もう一本!!!」
僕「マジすか、ありがとうございます!!」
いやまあ二本目が来るとは思ってなかったので、少しめんくらいましたが、おじさんの男気に甘えさせて、もう一本水を買ってもらうと。
おじさん「若いもんがそれっぽっちじゃのど乾いてしゃあないわ!!もう一本!!!」
僕「すみません!、自分嘘ついてました。本当はコーラが大好きなんです!!」
おじさん「よういうた!!!」
やっぱりね、感動しましたね。この頃になると最初のおじさんのイメージはすっかり消え去り、目の前の男らしいおじさんを心の底から尊敬していました。やっぱ見抜かれるもんなんですね、まだまだ未熟な自分が少し恥ずかしくなったりしました。
おじさんは去り際、僕に「バイクの楽しみ方は違うかもしれんが、同じバイク好きのよしみや!心ゆくまで旅してこい!!」と駐車場に響き渡るデカい声で別れを告げるとデコトラの車体を煌々と光らせ、ゆっくりと道の駅を後にしていきます。
トラックが駐車場を出てからもずっと手を振り続けていると、パァァァァ!!とデカい音で返事代わりのクラクションが一発。響き渡る反響が静まり返る頃にはもうトラックは見えなくなっていました。
最初から最後までうるさいおじさんだったなぁ。でもそれ以上にすごく格好良かったなあ。
残された三本のペットボトルを見ながら、そんなことを考えていました。
バイクの横で寝っ転がって眠るまでの間、旅について考えていました。
少なくともこの旅に出る前はさっきのおじさんみたいな人とは関わり合いを持つことはなかったはずです。でも今の自分はそんなおじさんと意気投合してジュースまで御馳走になっている。これはなんなんだろう、と。
人を見かけで判断するのはバカなんだなあ。とりとめのない考えにありきたりな結論をつけ終わると、一気に眠気が襲ってきました。
明日はどんな人と出会うんだろう。初めて明日見る景色以外の事を考えながらゆっくり眠りにつきました。