聖地巡礼ツーリングinしまなみ海道&尾道 2016/09/23~24
暑さも盛りを過ぎ、頬を撫ぜる秋風が心地よく感じる季節になる九月。
高校までは楽しい夏休みに別れを告げ、二学期のめんどくさい授業が始まる時期ですが、人生のモラトリアム期間の異名を持つ大学生は九月も丸々お休みです。残暑が過ぎてもまだまだ遊び足りない大学生達は、休みも終わり勤労や勉学に努める社会人や小中高生を横目に自由を謳歌します。
僕もまあその一人で、八月に九州ツーリング
九月頭には南アルプス登山とまあそれなりに大学一年の夏を謳歌したわけです。
ところがそれでもまだまだ旅がしたい。
休みはまだ一か月も残っている。
よし!じゃあ一丁四国一周でもしてみるか!と、思い立ったのが九月の二週目あたりだったと思います。
四国一周と言っても一気に四国四県を巡るのではなく、高知からいったん実家の香川に帰省し、そこから愛媛を経由して、高知に戻るという方法で、帰省と四国一周を掛け合わせたような旅でした。
だったらこの旅行記のタイトルは四国一周ツーリングが適切じゃないのか?そう思われる人もいるかもしれませんね。
実際しまなみ海道に立ち寄ったのも日程に思わぬ空きができたので、時間つぶしの意味合いが強く、最初は寄り道程度のつもりでした。
まあ旅というものは往々にして思い通り、予想通りにはいかない物でありまして、まあだから面白いんですが。
かいつまんで言うと、あんまりおもしろくなかったんですね。四国一周が。
面白くないという言い方は少し語弊が生まれるかもしれませんが、とにかく僕の中で四国一周をしたという事実こそ残れど、旅の思い出として僕の記憶に、写真に残っていたのは九割がたしまなみ海道でした。
別段天気が悪かったわけでもなければ、それなりに各県の名所も観光できたんですが、やっぱり途中実家を挟むことで、どうしても中だるみの様な感じになったのが大きいと思います。
僕の中で旅というものは、非日常的な視点から旅先での出来事や景色を楽しむもので、そこにいったん日常を挟むと、どうしても気分が乗らないというか、日常の視点で物事を見てしまうようになるんです。
そういう意味ではこの四国一周ツーリングは僕の中で不完全なものになっていて、いつか本当の意味で、非日常の視点で生まれ育ったこの地を一周してみたいと考えていたりします。
でも一応一周したことはしたんで、未練がましく写真と雑感だけでも書き起こしていこうと思います。
徳島は実家に住んでいる家族と訪れました。
前々から家族旅行をしようという話がありまして、今回僕の帰省のタイミングで親の休みが取れたということもあり、家族水入らずの時間を過ごそうということで、大塚国際美術館に行きました。
大塚美術館は名前にある通り、ポカリスエットやカロリーメイトなどの栄養食品で有名な大塚製薬グループが作った美術館で、徳島県の東端、四国の東の玄関口である鳴門市にある美術館です。
所蔵する美術品はおよそ1000点、日本でも有数の所蔵数を誇るこの美術館、通常の美術館とは大きく違った特徴を持っています。
まずは展示されている美術品を見ていきましょう。
入り口で受付をすませ、そのまままっすぐ正面の部屋に入ると、広大なホールが。
ホールの壁一面には中世の天才芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチの名作「最後の審判」が描かれています。
視界いっぱいに広がる審判の様子は、信仰心を持ち続けた人々を救済する神の神々しさ、反対に信仰心を失った人々を断罪してゆく神に対する畏怖の念を感じました。
僕は神に願うことと言えば「命をくれてやるから、俺に旅をさせろ」くらいなものでまあ審判の時には地獄に落ちる側な気がします。
他にも魅力的な美女達や
荘厳な宗教画や
見る者の解釈によって無数の意味を持つ意味わかんない現代アートなど
もうそれは古今東西ありとあらゆる名画が収められています。
さて、ここまでの展示品を見て大体予想がついていると思いますが、これ全部複製画です。
大塚グループの一つに陶器製造会社があって、そこが開発した特殊技術により世界中の名画を陶板に複製、それらすべてを原寸大で展示しているのがここ、大塚美術館なのです。
まあ言ってしまえば本物の絵画は一切ない複製品だけの美術館なのですが、僕自身は昔から芸術に疎く、美術品を見て素晴らしいと思う基準がすごいかすごくないかの二択なんですね。
そんな僕が大塚美術館に行って、古今東西ありとあらゆるジャンルの美術品をみた感想はそれはもうすごい、ただただすごいの一言だけでした。
だってミケランジェロやダヴィンチ、フェルメール、ピカソ、ダリその他歴史に名を馳せた大勢の芸術家達の作品が原寸大で、見て触って写真にまで収められるんですよ?
厳重なガードマンも、美術品と自分を隔てるうざったいこの先立ち入り禁止のロープも何にもないんです。
もちろん長い時間かけて順番に並んでやっと見れたと思えば、流れ作業のように数秒だけ見てすぐオサラバなんてこともありません。自分の目に留まった作品を自分の気の済むまで眺めて、絵画の世界に浸る事ができるのです。
芸術にとんと興味のない僕は、本物かそうでないかはどうだっていいんです。
家族と一緒にあらゆる作品を見て、触って、いっぱしの評論家を気取って、この黄金比は実に美しいね、なんて寸劇をしながら、楽しい思い出を作る事が出来ればもうなにも言う事は無いんです。その点で言えばこの美術館は今まで訪れた美術館の中で一番、もう本当に最高に楽しかった美術館でした。
まあこれが旅かどうかと言われるとうーんって感じですね。
でも久しぶりに家族と一緒に笑って過ごせた時間が、楽しかったことには変わりなかったので、行ってよかったなって思っています。
僕の生まれ故郷です。
正直17年間も過ごしてると県内の観光スポットなんてあらかた行きつくして、もう見たことない所ほとんどないんですよ。
なんで自分が昔訪れた思い出の場所を巡ったりしていました。
彼岸花の群生地に行って、自分の誕生花を眺めたり
同じタイミングで帰省していた友人とうどん巡りをしたり
秋空の瀬戸大橋を眺めたり
まあそれなりに実家での休日を満喫できたと思っています。
さて、実家でしばらくのんびりして、体も心も充分休ませることができました。
そろそろ四国一周の続きをしましょう。
ところがなんだか気分が乗りません。
なーんか物足りないんですよね、今まで行ったことある所ばっかり巡っても何というか、こう刺激が足りないんですよ。
じゃあせっかくだししまなみ海道に寄り道をしてみようということで、実家を出発したのが九月の23日でした。
前置きがいささか長くなってしまいましたが、ここでようやくタイトルのしまなみ海道です。
香川からしまなみ海道の入り口がある今治までは、国道11号線に沿って延々と海沿いを走っていきます。
海沿いと言っても基本は太平洋ベルトに沿った工業地帯が続いている区間なのでとくにこれと言って見どころはありません。
なので写真もほとんど撮ってないですね。
基本的に僕がシャッターを切るときは何かしら心が動かされた時で、まあそれは景色がきれいだったり、何か面白い物があった時とかなんですね。
そんな僕がこの区間で唯一撮っていた場所がこれです。
瀬戸内工業地帯の一つである四国中央市にある製紙工場です。
四国中央市は紙の町と言われているほど多くの製紙工場があり、11号線もその製紙工場地帯のど真ん中を突っ切ります。
なんでこの工場地帯の写真だけ残っているのかといいますと
端的に言えばめちゃくちゃに臭いんですよ、この町。
小中学校の工場見学で製紙工場を訪れた事がある人は知っているかもしれませんが、紙を作る工場はとにかく臭いが半端なく臭いんです。
僕が中学の時見学した製紙工場ではたしか
紙の原材料になる繊維素材であるパルプを一度真っ白に漂白する際に使われる薬品が強烈なにおいを発する。
的な感じで説明を受けた記憶があるのですが、まあとにかく紙を作る工場は臭いがすごいのです。
そんな製紙工場が国道を挟んで両脇にずらぁーっと立ち並んでいる四国中央市、臭くないわけがないんですね。
まあさんざんこき下ろしました四国中央市の名誉のために付け加えておくと、工場のにおいがするのは11号線が走る沿岸部の工業地帯だけです。市街地がある内地側ではほとんど臭いはありません。たまに海風に乗って運ばれてくることもあったりしますが
そもそも工場の文字通りど真ん中を国道が突っ切るということ自体がちょっとおかしいんですよね。そりゃ臭いのも当たり前じゃないかという話です。
現在では工場地帯の渋滞解消もかねてバイパスが山側に作られているので、工場を通る必要はなくなりました。
今回は素通りしたこの四国中央市ですが、製紙工場だけでなく見どころもそれなりにある結構いいところなんですよ。
ざっと紹介していくと
梅雨時期になると二万株のあじさいが咲き誇る新宮あじさいの里
一面すすき野原が広がる塩塚高原など
自然の魅力もいっぱいある素晴らしい場所です。
また、四国中央市のマスコットキャラクターもとっても狂気じみてかわいいんですよ。
四国中央市の主要産業であるティッシュを携えているネズミをモチーフにした危険極まりないシコ厨かわいらしいしこちゅー
いろんな意味で僕は衝撃を受けました。
まあ色々書きましたが良いところですよ、四国中央市。
まあそんなこんなでようやくしまなみ海道の愛媛側の入り口がある今治市に到着しました。
原付や自転車はここサンライズ糸山の近くにある専用道路から橋まで登っていき、専用の側道を通って島へと渡ります。
それじゃあ橋を渡って最初の島へ向かう前に・・・
まずは大まかなしまなみ海道の概要を
四国と本州をつなぐ本州四国連絡橋、その三本のうちの愛媛と広島をつなぐのが
西瀬戸自動車道 通称「しまなみ海道」 と呼ばれているルートです。
さて、このしまなみ海道ですが、他二つのルートとは少し違った特徴があります。
図を見てもらえるとわかるように、瀬戸内海の広島と愛媛間にある芸予諸島を縫いつないでいくようなルートになっています。愛称のしまなみ海道もここからとられているようですね。
他二つのルートがそれぞれ最短距離を結んでいるのに対して、このしまなみ海道だけなぜこのようなルートをとっているのか
それはこの西瀬戸自動車道の役割が本州四国をつなぐ役割の他にもう一つ、島民が島から島へと移動するための生活道路としての役割も兼ね備えているからです。
他二つにはない自転車道と歩道が全線整備されているのもそのためで、島で暮らす人々がフェリー以外での移動手段を得ることができるように作られたのがこのしまなみ海道というわけです。
現在では生活道路としての役割ももちろんのこと、観光面でも地域の振興に一役買っており、瀬戸内の島々と瀬戸内の海の上を自転車で走りながら景色も楽しめるということで、大規模なレンタサイクル事業が整備されたことでレンタサイクルの聖地として世界中からサイクリストたちが走りに来る一大観光地となっています。
ざっとしまなみ海道についての解説も済んだところで最初の目的地に向かって出発しましょう。
スロープで橋を登って
しまなみ海道二番目の島、大島へと向かいます。
原付用の側道からは瀬戸内の蒼い海が一望できて、とっても爽快感にあふれていました。吹き抜ける潮風や遠く海に浮かぶ漁船が気分を一層盛り上げてくれます。
さて、橋を渡り切った後は歩行者や、自転車はいったん下道に降りることになります。
島の区間の高速道路は完全に自動車専用になっており、それ以外は一般道を通ることになります。この島には最初の目的地である亀老山展望台があります。なんでも日本の展望台ランキングでトップ5の常連らしく、今回は夕日を見てみようと思い行ってみました。
西日がまぶしい
展望台というだけあって山の上にあるんですが、これがまた結構な上り坂でエンジンを唸らせながらえっちらおっちら上っていきます。
自転車で向かう人はそれなりに気合を入れて挑戦した方がいいですね。
なんやかんやで到着しました、展望台。
ここ亀老山展望台はしまなみ海道で一番巨大な来島海峡大橋と瀬戸内海を一望できるしまなみ海道でも指折りの展望台で、僕が訪れた時も夕日を見るため、結構な人数の観光客が展望台で夕日を待ち構えていました。
大体一時間くらいぼけーっとしていると空の雲も次第に晴れて行き、太陽がハッキリと顔を見せ始めました。
うーん、さすがランキング常連の展望スポットですね。
瀬戸内海のたおやかな水面とそこに浮かぶ島々、それを茜色に染め上げる太陽
かつてないほどにダイナミックで、息をのむ風景でした。
遊びでホワイトバランス(写真の色温度)を蛍光灯にして撮ってみるとこれはこれで満月の夜の様な雰囲気が出て面白かったです。
残念ながら終盤で雲が出てきてしまい海面に沈む夕日は見れませんでしたが、それでも僕の心に大きな満足感を残してくれました。
さて、ここから二つ目の目的地である尾道へと急いで向かいます。
僕がしまなみ海道でこれだけは見ておきたいと思った風景がこの亀老山展望台からの夕景と、もう一つの尾道大橋と造船所のライトアップだったのですが、そのライトアップが夜10時までしか点灯しておらず、一泊二日のスケジュールでは行きはどうしても急ぎ足で観光する暇が取れませんでした。
なのでここから尾道までの写真は無いです。
上の日没直後の写真を撮ったのが6時過ぎたころで、夕日が沈んだのを見届けてから超スピードでしまなみ海道を駆け抜けました。本当はここの来島海峡大橋もライトアップが行われているのでいつか再訪することがあればこっちのライトアップも見てみたいです。
スピードメーターを振り切りながらかっ飛ばしたおかげで、しまなみ街道最後の橋であるおのみち大橋を渡り、尾道に入ったのが大体9時前でしょうか。
そこから尾道市内にいくつかある展望台のうち、最初に訪れたのが千光寺展望公園です。
ここからは尾道と向島をつなぐ尾道大橋と新尾道大橋や、尾道の旧市街地を一望できます。また、ロープウェイや山頂までの道も綺麗に整備されており、山頂の展望施設も大変綺麗に作られていて、僕が訪れた時もそれなりに観光客でにぎわっていました。
これが尾道大橋のライトアップで
これが旧尾道市街地です。
奥に見えるカラフルな工場みたいなやつは向島造船所の造船クレーンです。
ここも観光キャンペーンの一環として、尾道大橋のライトアップに合わせた夜10時までライトアップを行っており、造船業でにぎわう町並みを色鮮やかに彩ります。
さて、ここの展望台を見て終わりかと思ったのですが、思ったより時間が余ったのでもう一つの展望台へと向かってみることにしました。それが、同じく市街地にある浄土寺展望台です。
ですが、ここがまあとんでもない展望台でした
とにかくアクセスが悪いんです。いやもうめちゃくちゃにアクセスが悪いんですよ
20分かけて階段を上っていく登山道と裏から車道で回っていく道があって、僕は原付だったので裏山から回っていったのですが、まずその道もだいぶ頭おかしい道でしたね。
もう初見殺しにもほどがある道です。当たり前ですが街灯なんぞ一本もありません。
ガードレールもないので崖から落ちたらそのままバイバイです。
おまけに僕が恐る恐る走っていると突然目の前に何か蠢く黒い影が現れて、慌てて急ブレーキをかけてヘッドライトで照らすと
イノシシの群れが道を横切っている最中でした。
本当あとちょっとで激突する寸前で、もうその時点でめちゃくちゃ帰りたかったんですが、ここまで来るのに結構時間もかかったし、ここで引き返すのも癪だったのでもうビビりながら進んでいったら何とか駐車場らしき空き地にたどり着いたんですね。
空き地にバイクを止めて、真っ暗な山道を一人で5分くらい歩いたらようやく展望台らしきものが見えてきました。
で、その展望台への入り口なんですが
:
岩の隙間通って行く展望台はちょっと聞いたことなかったですね。
真っ暗な夜中に一人でこんな岩の隙間くぐってまで、自分はいったい何をしているんだろうと心が折れそうになりながら、展望台を登るとようやく尾道の全景が見えてきました。
尾道の市街地は主に3つの区画に分かれていて、手前側のオレンジの灯りの街が先ほどの写真でもあった旧市街地です。ここは古くからの港町ということもあり、区画一帯がナトリウムランプのオレンジ色に包まれています。
で、その右側の山のふもとあたりが住宅街ですね。この区間は防犯灯の青色や緑色が多いです。
最後に一番奥で燦然と輝く白色LEDの区画、ここが尾道の現市街地であり、市の中枢的区画です。新幹線の駅やオフィス街などがこの辺に集中しています。
一つの景色の中にこうやって3つの区画がそれぞれ違う色でハッキリと見える夜景は尾道くらいのものでしょう。
過去最高に過酷な展望台から見る景色は過去最高に鮮やかで色とりどりの色彩にあふれた景色でした。
まあでもさすがにイノシシとあの岩はちょっと観光スポットとしては首をかしげざるを得ませんね。実際ここで景色見てる人僕以外誰もいませんでしたし。
それでも尾道を一望できるという点ではこれ以上ないほど素晴らしい場所なので尾道を訪れた際はぜひ行ってみてほしい場所です。というか普通の人は多分日が出てて明るい昼間に行くんでしょうね。絶対そっちのが安全でいいと思います。
命をかけて景色を堪能した後は今日の寝床へ向かいます。
新しい市街地や住宅街では寝れそうにないので、旧市街地をぶらつきながら寝床探しです。
初めて訪れる土地の商店街ってその場所の風土や雰囲気が色濃く映し出されていて、すごい好きなんですよね。異邦の地って感じで。
一通りぶらついてから、結局海沿いの向島フェリー発着場のすぐそばにある野外テラスで夜を明かすことにしました。
少し遅めの晩御飯を作っていると、奥のテーブルで地元の方が酒盛りを始めていました。異国情緒あふれる港町で、賑やかな笑い声とかすかにさざめく波音はなんだか妙に心地よく聴こえ、更けゆく秋の夜にとっぷりと浸かることができました。